尾崎に差し迫るオーマイリトルガール

夜の川崎駅前は路上ミュージシャンがたくさんいる。

東口駅前はかなり広いスペースになっているのだが、毎日必ず何組も路上ミュージシャンが自由に演奏している。

音量もフルパワーで、全力で演奏しても注意されたりもしない。

川崎は音楽の街と言われたりもしているそうで、路上で演奏することに寛大なようだ。

女性のバラードから本格的なバンドまでいろんな音楽が路上で鳴っている。

演者のスキルも様々で、その辺のカラオケレベルの人もいれば、プロ顔負けの物凄い歌声や演奏技術を持った猛者もいる。

やはり後者の「猛者」の周りには自然と人が集まってくる。

ほぼ毎日川崎駅前広場を通るのだがたまにとてつもない猛者がいる。

今日はオーマイリトルガールの猛者に遭遇してしまった。

その男性は黒いハンチング帽をかぶり、地面に座り、アコースティックギターを弾き、下を向きながら尾崎豊のオーマイリトルガールを熱唱していた。

オーマイリトルガールといえば路上弾き語りの中で定番中のド定番、この世で最も歌われている曲といっても過言ではないだろう。

いわばストライクゾーンのど真ん中にストレートを投げているようなものだ。

だがそのど真ん中に放たれたオーマイリトルガールは時速160キロの豪速球だった。

下を向きながら歌う声は川崎じゅうに響き渡るほど力強く、それでいて伸びやかだった。

藤川球児江川卓の、唸りをあげて浮き上がるストレートのような歌声だった。

歌い終わると集まった人たちは拍手喝采を送っていた。指笛を吹く人などもいた。

あのオーマイリトルガールは尾崎豊のオーマイリトルガールに差し迫るほどのオーマイリトルガールだった。

路上で聴いたオーマイリトルガール史上最高峰のオーマイリトルガールだった。

もはやオーマイリトルガールを超えて成人女性だった。