ワイヤレスイヤホンの弱点

夜。電車に乗っていた。わたしは座席の一番端に座っていた。車両の中はそこそこ混んでおり座席は全て埋まっていて、立って過ごす人も多くいた。

隣の隣の席の前に立っているサラリーマンの方が、困った様子でなにやらゴソゴソと座席の下あたりを探していた。

「なんか探してますか?」と前の座席に座っていた男性が声をかけた。サラリーマンの方は少し恥ずかしげに「イヤホンを落としてしまいまして」とポケットからワイヤレスイヤホンの片方を出した。

親切な男性は一緒に座席の下を探し始めた。サラリーマンの方はスマホのライトで暗闇を照らしサポートする。お互いに名前も知らないであろう二人に奇妙な連帯感が芽生えていた。

気づくと周囲の人々も白い小さなイヤホンを共に探し始めた。「あっ、あそこにありましたよ」最初にイヤホン探しを手伝い始めた男性が車両中央のドアのあたりを指差した。なぜかワイヤレスイヤホンは車両の真ん中まで転がっていた。無事イヤホンは主のもとに戻り、電車内は安堵に包まれた。

ワイヤレスイヤホンはワイヤーを失ったことにより、圧倒的なコンパクト化と利便性を手に入れた。しかしその一方で、失くしやすいというシンプルな弱点を抱えることとなった。ふとそんなことに気付かされた出来事だった。

 

 

玉・赤備の味玉豚鶏つけ麺

久しぶりに玉・赤備のつけ麺をいただいた。赤備。あかぞなえと読む。赤備とは戦国時代の甲斐の武田の騎馬隊の赤い甲冑のことである。

ここは川崎銀柳街。駅からまっすぐ伸びる仲見世通りとこの銀柳街はクロスしている。クロスしているポイントでは居酒屋のキャッチのお兄ちゃんたちが目を光らせている。

駅周辺で最も人通りの多いストリートだ。この通りをずっとまっすぐ進むとチネチッタクラブチッタのある若者のエリアへと至る。

赤地に金色の文字。CR花の慶次のような色使いだ。この真向かいには日高屋がある。今日も日高屋でサクッと食べて帰ろうと思っていたのだが、ふとこの赤看板がわたしを手招いた。

脳内で日高屋軍と赤備軍の合戦が始まった。数秒ののち、赤備軍が日高屋軍を押し切り、日高屋軍は戦場から撤退していった。わたしは踵を返し赤備ののれんをくぐった。

玉グループは川崎駅周辺だけで10店舗近く店を構えており、一大玉帝国を築いている。本店は駅からかなり離れた場所にあり、この店舗は駅前の繁華街の最前線で戦う重要な拠点である。

真っ赤な器はスマホの待ち受けにしたら運気が上がりそうだ。丼の中はパワースポットだ。豪快に盛られた麺は平打ちでツルツルとしている。中盛りまで無料となっている。中盛りは麺が300g。

本店が豚×魚介なのに対して、こちらのスープは豚×鶏となっている。これが世に言う豚鶏同盟である。姿は見えていないがこの水面化には分厚いチャーシュー将軍が潜んでいる。

久しぶりに食べたがやっぱりうまい!なんだか麺のモチモチ感が前よりも増している気がするのだが気のせいだろうか。「男子三日会わざれば刮目してみよ」。刮目して啜らせていただいた。

ツルツル&モチモチの麺は300gでもあっという間にペロリと食べれてしまう。光陰矢のごとし。たっぷりと盛られた麺は勢いよく放たれた矢の如く一瞬で無くなった。天晴である。今日もシンプルにうまいつけ麺からエネルギーをいただいた!

 

 

 

 

タルトドットコーヒー・武蔵新城

とんでもなくうまいタルトに出会ってしまった。今までそんなにタルトを食べてきてないし、これからもそんなにいろんなタルトを食べることもないだろう。

ということは今後これを超えるタルトに出会うことはないかもしれない。そう思うほどうまいタルトだった。

その店はJR南武線溝の口のひとつ隣の駅、武蔵新城という駅の目の前にある。ビルの非常階段のような階段を登ったところに入口がある。外観は銀色が印象的でメタリックなイメージだ。

タルトドットコーヒーは2021年7月27日オープン。「日常の小さな幸せを提供する存在でありたい」をコンセプトにオーナーが生まれ育った街である武蔵新城の地にオープンした。

小さな幸せを提供したいということだが、この美味しすぎるタルトからは結構大きな幸せをいただいた。

扉を開けると白と灰色のイメージのスタイリッシュ空間がそこには広がっている。タルトとスペシャリティコーヒーがタルトドットコーヒーの軸である。

タルトは季節の素材やフルーツを使用しオリジナルレシピでつくられる。常時3種類用意されており季節によってラインナップが変わる。

コーヒーはハンドドリップで、やはり常時3種類の中から豆を選ぶことができる。おすすめは「TDCオリジナルブレンド」で、タルトに合うように独自にブレンドされている。

今回はタルトは「レモンタルト」を、コーヒーは「アメリカーノ」をいただいた。タルトドットコーヒーではタルトはすべて丸い形で提供するというこだわりがあるそうだ。ドットとはタルトの丸い形を表している。

クッキー生地はかなりしっかりとしていて、ナイフとフォークでいただく。口に入れるとレモンの濃厚さと爽やかさとタルトの生地が三位一体となって襲いくる。なぜこんなにうまいのか説明できないがとにかくうまい。

甘さからなにまで全てが絶妙だ。わたしはこのときにドラゴンボールフュージョンを思い出した。お互いの気を全く同じにして同じ動きをしなければフュージョンのとてつもないパワーを得ることはできない。

フュージョンといえばスッキリとした味わいのアメリカーノはタルトとの相性抜群だ。タルトが悟天ならアメリカーノはトランクスだ。そういえばドラゴンボールも丸いものを集める話だ。

店名が描かれたオリジナルのマグカップもまた趣がある。このお店は外観といい器といい、どこかしら銀色というか灰色というか、無機質なイメージを感じる。

それにしても美味しいタルト&コーヒーだった。ドットという言葉には3つの意味がある。点という意味・水玉模様という意味・ディスプレイを構成する最小の単位という意味だ。

武蔵新城という街を俯瞰で見ると、このお店もまた街を構成する最小単位のドットの一つである。この街にまた新しいドットが刻まれたようだ。

その後わたしはマンホールを見るたびにあの美味しいタルトを思い出すのだった。

 

 

 

 

 

木枯らし1号とくじら12号

朝。いつもの道を駅に向かっていると、黄色いウェアを着たランナーが反対側の道路を駆け抜けていった。

健康のためダイエットのために走っているランナーとは走る目的が違う、ただただ走る行為の極限を突き詰めるガチランナーだ。

40代くらいと思われるが彼らに年齢など関係ない。寒さも関係ない。体と精神を研ぎ澄ました猛者である。

先日木枯らし1号が吹いたとニュースでやっていた。木枯らし1号ってなんだろうと思い調べてみた。

木枯らし1号とは晩秋から初冬にかけて初めて吹く、風速毎秒8メートル以上の北よりの風のことらしい。

東京地方と近畿地方でこの北風が観測されると、気象庁木枯らし1号のお知らせを出すらしい。

毎秒8メートルを超えなければ木枯らし1号にはなれないようだ。毎秒7・9メートルのギリギリ木枯らし1号になれなかったただの北風もいたのだろう。

ニュースで木枯らし1号という言葉を聞いたときにくじら12号という言葉も頭に浮かんだ。

くじら12号とは1997年発売のジュディアンドマリーの11枚目のシングルだ。

わたしはこのくじら12号という曲が割と好きだった。Over Driveやそばかすほどの代表曲ではないがなんか好きな曲だ。

このくじら12号という曲は、なにを歌っている歌なのか歌詞がよくわからない。

冒頭の歌詞は「クラッカーとチーズとワインでフル回転のスクリューはグウ」冒頭からわからない。

そもそもくじら12号ってなんなのか?木枯らし1号を調べたついでにくじら12号についても調べてみた。

ネットで調べてみると意外な事実がわかった。くじら12号はサッカー日本代表を応援している歌だった。

くじらとはくじらを食べる日本人のことで、12号の12はサッカーのサポーターの12番目の背番号ということらしい。

サビの歌詞は「太陽が目覚めたらあの船で行こう寄り添って 雪解けを泳ぐくじらみたいな まだ誰も知らないあの空の果ては きっと眩しすぎるガラスの扉 ドルフィンキックで痺れてみたいな」

太陽とは日本代表の日の丸のことをさしている。

日本が初めて出場したフランスワールドカップは1998年で、くじら12号がリリースされたのは1997年。

ジョホールバルの歓喜は1997年11月16日で、くじら12号が発売された段階で日本代表はまだワールドカップに出たことがなく、サッカー日本代表の悲願達成をこっそり応援する歌だったのではなかろうか。

最後の「ドルフィンキックで痺れてみたいな」ではドルフィンキックとサッカーのキックがかかっている。

木枯らし1号が吹いたおかげでくじら12号について詳しく知ることができた。

 

 

 

OBSCURA COFFEE ROASTERSのアイスコーヒー・ブーランジェリーボヌールのきなこあげぱん

わたしにとって世界は川崎とその外側の世界で構成されている。川崎の内部か外側か、世界はその二つしかない。

ここは三軒茶屋。わたしは三軒茶屋にあるキックボクシングのジムに通っている。

最近は週一回行くか行かないかという超スローペースで行っているが、体を動かすと頭もシャキッとする。

昔は上空に架かるこの巨大な道路に圧迫感を感じていたが、今ではそれも三茶のアイデンティティだと思っている。

日曜日の茶沢通りは午後一時から五時まで歩行者天国となっている。

下北沢へ通じるこのストリートはお洒落な店と古き良き店が混じり合っている。わたしは日曜日のこの通りの雰囲気が好きだ。

国道246三軒茶屋交差点から下北沢に通じるこの茶沢通りの商店街を「三茶しゃれなあど」と言う。

おそらくオシャレなプロムナードで「しゃれなあど」だと思うのだが正解かどうかはわからない。

あるいはさらにもう1、2個意味がかかっているかもしれない。レナードとか。

三軒茶屋という街は若者が多く街全体がオシャレな街だがこのオレンジの柱はあまりオシャレではない。いや一周回ってオシャレなのかもしれない。

ちなみに道の反対側に同じものがもう一本あり、そちらの方は文字が光っているのだがこちらの方は光っていない。

あえて光を失ったほうを写真に収めさせていただいた。

そのしゃれなあどにあるOBSCURA COFFEE ROASTERS。わたしはジムで汗を流した後にここのアイスコーヒーを飲むことを楽しみとしている。

この一杯のためにジムへ行くと言っても過言ではない。

OBSCURA COFFEE ROASTERS は世界中のコーヒー農園を直接訪れて買い付けを行った豆を、その豆の特性を最大限活かすべく丁寧に焙煎している。

三軒茶屋に3店舗あり、渋谷駅の東急フードショー内に1店舗、広島にも2店舗あるそうだ。

お店の前に木のベンチがあり、そこでコーヒーを飲みながら行き交う人を眺める。ほんの数分の時間だがこの時間が好きだ。

ジムで尋常じゃないくらい汗をかくのだが、その後に飲むアイスコーヒーは本当にうまい。

このお店のコーヒー自体がめちゃくちゃうまいのだが、そのおいしさが2倍にも3倍にも膨れ上がる。

コーヒーを美味しく飲む一番の方法は鬼のように汗を流しまくることだ。

そのすぐ近くにあるブーランジェリーボヌール。もうアルファベットを書くのが面倒なのでカタカナで表記させていただく。

三軒茶屋はパン屋さんがめちゃくちゃいっぱいある。都内でも有数のパン屋さん地帯だろう。

日曜日の歩行者天国の時間には店の前でパンを販売している。ゴール前にすごい勢いでオーバーラップしてくる長友選手のように攻め上がってきている。

トルティーヤにあげぱんにチュロス。きなこあげぱんがわたしのハートを撃ち抜いた。そして小学校の給食の風景がフラッシュバックした。

白い袋からあげぱんを取り出すときなこが風に舞い上がった。粉雪みたいだった。

汗を流したあとは食べ物もめちゃくちゃうまい。体がエネルギーを吸収していくのがよく感じられる。

揚げたうえに甘いきなこをこれでもかと振りかけるという、カロリー的にとんでもない暴挙を行っているのだがなぜこんなにポップでかわいいのだろうか。

やはり日曜日の茶沢通りは平和でいい。今日はなかなかいい日曜日だったのではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿中村屋のスパイス紀行シリーズ「チキンクルマ」

新宿中村屋監修のレトルトカレー「スパイス紀行」シリーズ。わたしはこのシリーズのパッケージが好きだ。

レトルトカレーで世界を旅するようなアイディアもいいなと思う。世界の車窓からみたいな。

レトルトカレーであると共に、一冊の本を読むような気分になる。

今回のスパイスをめぐる旅は南インド。広大なインドの中で南インドでは南国ならではのスパイス料理が生まれたとある。

ナッツやココナッツミルク等で仕上げたチキンクルマはマイルドでリッチな味わいのインドカレーですと。

なるほど、インドにもいろいろあるのだな。クルマってどういう意味なんだろう。クルミ

こちらのレトルトカレーは袋のまま電子レンジで加熱できないタイプなので皿に移して2分チンする。

なるほどたしかにインドっぽい神秘的な妖しさがある。パッケージのカラーと同じ色だ。

サラダと牛乳といただきます。こうしてみると牛乳がラッシーに見える。インドカレー屋のラッシーは美味しいよなあ。

カレーを食べてみるとたしかにココナッツミルクのコクが深い濃厚でマイルドな味わいだ。

スパイシー感は全くなく、すごくマイルドだ。というかマイルドすぎるかな?

全部食べ終わったあとに何気なくパッケージをもう一度眺めていると、、

「香り立つザクザク特製スパイス付き」と書いてある。ん?ザクザク?

もしかしてと思いパッケージの中を見てみると、、

スパイスミックスの小袋が出てきた。。スパイス紀行というシリーズのカレーでこの小袋はかなり重要な軸だったのではなかろうか。

だがこういうトラブルこそ旅の醍醐味である。このスパイスはなにか別のものに使うことにしよう!

 

 

川崎夜市2023 〜食・飲・音・遊〜

いつもの平日の帰り道、飯食って帰って寝るだけだと歩いていると川崎駅前でなにやら人だかりが。

なにかやってるなと覗いてみると「川崎夜市」なるイベントをやっていた。

ピンクのネオンがあやしく光っている。ブレードランナーに出てくる未来都市のようだ。

川崎夜市は川崎の夜の魅力を全国に発信する市内最大級の夜遊び企画ということらしい。

去年に第一回が開催され、今年は更にスケールアップして川崎夜市2023として帰ってきた。

またまた怪しげなデザインだ。お箸とレンゲがクロスしており、上には「食・飲・音・遊」の四文字が躍る。

英語ではKAWASAKI NIGHT MARKETということだ。

駅前の飲食店によるはしご酒イベントにライブパフォーマンス、川崎宿起立400年記念イベントなど、街ぐるみの大きな祭りだ。

そしてこの駅前広場では「川崎ソウルフード屋台」というものが催されていた。

川崎で愛される名物飲食店が二日間限定で一同に集結している。

東京でも横浜でもない、川崎特有のディープで雑多な食文化を発信していこうというコンセプトだそうだ。

せっかくだからビールでも一杯飲んで帰ろうかということでこちらの屋台に。

こちらはT.T BREWERYといい、地元川崎でクラフトビールを製造している醸造所だ。

4種類のラインナップの中から「シトラブースト」というビールをいただいた。一杯700円。

説明書きにはシトラホップで仕上げた香り高く飲みやすいエールとある。

飲んでみるとたしかにスッキリとした飲みやすさとシトラス的香りを感じる。

シトラホップとはアメリカ産のアロマホップの一種で、ビールに芳醇なアロマをもたらしてくれるそうだ。

特設ステージではジャズのライブパフォーマンスが行われていた。

川崎市では「かわさきJAZZ」なるイベントを定期的にやっており、ジャズには縁があるようだ。

いい感じに酔いが回ってきたが雨が強くなってきたので帰ることにした。

帰りに駅そばのかき揚げうどんを食べた。酒のあとのシメとして食べたうどんはいつもの5倍くらい美味しく感じた。

川崎夜市を体験して感じたことは、「シメのうどん最強説」だ。